大規模ネットワークシステムのクラスタ低次元化
近年、ネットワーク科学の分野では、グラフ理論や統計理論に基づいて現実の世界に存在する様々なネットワークの解析が行われており、スモールワールド性や次数分布のべき則などに代表される普遍的な特性が見出されています。 このネットワーク解析における研究課題のひとつに「コミュニティ検出」と呼ばれるものがあります。 コミュニティ検出問題とは、与えられたネットワークをいくつかの部分ネットワーク(コミュニティ)に分割する問題であり、 人間関係のネットワークにおけるグループの検出問題などが代表的です。これは対象とするネットワークをクラスタ化する問題と解釈することもできます。
本研究では、このコミュニティ検出問題に対して制御理論的なアプローチを試みています。 より具体的には,ネットワークを構成するノードに対して状態変数を設定し、状態の入力信号に対する振る舞いの類似度という観点からノードの集合を分類(データクラスタリング)することを考えます。 結果として、図に示されるように、ネットワーク内に含まれる「良く似たノード」が検出され、入力状態写像に関して本質的な寄与をもつエッジの集合が可視化されます。 さらに、構成されたクラスタに対して集約化された低次元の状態変数を与えることにより、クラスタ間のネットワーク構造を保存した低次元化(クラスタ低次元化)が実現されます。得られた集約モデルの各状態は、もとのネットワークシステムの各クラスタの平均値の振る舞いを近似しています。
大規模ネットワークシステムの階層的なクラスタ低次元化
システムの非負性や消散性を保存した低次元化
現実の世界には、物質の濃度や生物の個体数など、非負値の変数を内部状態にもつシステムが数多く存在しています。このような特性をもつシステムは、線形システム論においてポジティブシステムと呼ばれ、その状態(および出力)の非負性は、 システム行列の非負性として特徴づけられます。 これにより、システムの非負性を保存する低次元化問題は、システム行列の非負性を保証しながらシステムの入出力写像を近似する問題として定式化されます。本研究では、このシステムの非負性の他にも、エネルギーの散逸を表す概念であるシステムの消散性に対して、その消散性を保存する低次元化問題を定式化し解を与えています。
ポジティブシステムの低次元近似モデリング
コントローラやオブザーバの低次元化
近年、ロバスト制御に代表される系統的な制御系設計手法が確立され、様々な観点からその有効性が示されています。しかしながら、これらの発展的な制御系設計手法によって得られるコントローラや状態オブザーバは、対象とするシステムと同程度の次元となるため、大規模なシステムに対する制御系の実装は必ずしも容易ではありません。このことから、制御系全体の性能を保証しながらコントローラやオブザーバを近似すること(コントローラやオブザーバの低次元化)は重要な課題です。
このコントローラやオブザーバの低次元化問題は、図に示される信号の送受信構造を保存しながらコントローラやオブザーバを近似する問題として定式化されるため、システムの構造を保存する低次元化問題のひとつとして解釈されます。このような特別な構造をもつシステムの近似問題は、一般に難しい問題であることが知られています。本研究では、上述したシステムの消散性を保存する低次元化手法を適切に用いることによって、このコントローラやオブザーバの低次元化問題にひとつの解を与えています。 その他、クラスタ低次元化の応用として、大規模ネットワークシステムの平均的な振る舞いを近似的に推定するオブサーバの設計法の提案や、標準的な低次元化を応用した階層的な構造をもつ低次元オブザーバの設計法の提案などを行っています。
信号の送受信構造を保存するコントローラやオブザーバの低次元化
代表的な論文(プレプリント版)
Automatica (2015)
IEEE Transactions on Control of Network Systems (2017)
IEEE Transactions on Automatic Control (2015)
IEEE Transactions on Automatic Control (2014)