大規模ネットワークシステムのクラスタ低次元化

近年ネットワーク科学の分野ではグラフ理論や統計理論に基づいて現実の世界に存在する様々なネットワークの解析が行われておりスモールワールド性や次数分布のべき則などに代表される普遍的な特性が見出されています。 このネットワーク解析における研究課題のひとつに「コミュニティ検出」と呼ばれるものがあります。 コミュニティ検出問題とは与えられたネットワークをいくつかの部分ネットワーク(コミュニティ)に分割する問題であり 人間関係のネットワークにおけるグループの検出問題などが代表的です。これは対象とするネットワークをクラスタ化する問題と解釈することもできます。

本研究ではこのコミュニティ検出問題に対して制御理論的なアプローチを試みています。 より具体的には,ネットワークを構成するノードに対して状態変数を設定し状態の入力信号に対する振る舞いの類似度という観点からノードの集合を分類(データクラスタリング)することを考えます。 結果として図に示されるようにネットワーク内に含まれる「良く似たノード」が検出され入力状態写像に関して本質的な寄与をもつエッジの集合が可視化されます。 さらに構成されたクラスタに対して集約化された低次元の状態変数を与えることによりクラスタ間のネットワーク構造を保存した低次元化(クラスタ低次元化)が実現されます。得られた集約モデルの各状態はもとのネットワークシステムの各クラスタの平均値の振る舞いを近似しています。

  • Takayuki Ishizaki, Kenji Kashima, Jun-ichi Imura, Kazuyuki Aihara: Model Reduction and Clusterization of Large-Scale Bidirectional Networks. IEEE Transactions on Automatic Control, 59(1), pp.48-63, 2014. (DOI: 10.1109/TAC.2013.2275891) [Preprint]

  • Takayuki Ishizaki, Aranya Chakrabortty, Jun-ichi Imura: Graph-Theoretic Analysis of Power Systems. Proceedings of the IEEE, 106(5), pp. 931-952, 2018. (DOI: 10.1109/JPROC.2018.2812298) 東工大/JST プレスリリース

システムの非負性や消散性を保存した低次元化

現実の世界には物質の濃度や生物の個体数など非負値の変数を内部状態にもつシステムが数多く存在しています。このような特性をもつシステムは線形システム論においてポジティブシステムと呼ばれその状態(および出力)の非負性は システム行列の非負性として特徴づけられます。 これによりシステムの非負性を保存する低次元化問題はシステム行列の非負性を保証しながらシステムの入出力写像を近似する問題として定式化されます。本研究ではこのシステムの非負性の他にもエネルギーの散逸を表す概念であるシステムの消散性に対してその消散性を保存する低次元化問題を定式化し解を与えています。

  • Takayuki Ishizaki, Henrik Sandberg, Kenji Kashima, Jun-ichi Imura, Kazuyuki Aihara: Dissipativity-Preserving Model Reduction for Large-Scale Distributed Control Systems. IEEE Transactions on Automatic Control, 60(4), pp.1023-1037, 2015. (DOI: 10.1109/TAC.2014.2370271) [Preprint]

  • Takayuki Ishizaki, Kenji Kashima, Antoine Girard, Jun-ichi Imura, Luonan Chen, Kazuyuki Aihara: Clustered Model Reduction of Positive Directed Networks. Automatica, 59, pp.238-247, 2015. (DOI: 10.1016/j.automatica.2015.06.027) [Preprint]

コントローラやオブザーバの低次元化

近年ロバスト制御に代表される系統的な制御系設計手法が確立され様々な観点からその有効性が示されています。しかしながらこれらの発展的な制御系設計手法によって得られるコントローラや状態オブザーバは対象とするシステムと同程度の次元となるため大規模なシステムに対する制御系の実装は必ずしも容易ではありません。このことから制御系全体の性能を保証しながらコントローラやオブザーバを近似すること(コントローラやオブザーバの低次元化)は重要な課題です。

このコントローラやオブザーバの低次元化問題は図に示される信号の受け渡しの構造を保存しながらコントローラやオブザーバを近似する問題として定式化されるためシステムの構造を保存する低次元化問題のひとつとして解釈されます。このような特別な構造をもつシステムの近似問題は一般に難しい問題であることが知られています。本研究では上述したシステムの消散性を保存する低次元化手法を適切に用いることによってこのコントローラやオブザーバの低次元化問題にひとつの解を与えています その他クラスタ低次元化の応用として大規模ネットワークシステムの平均的な振る舞いを近似的に推定するオブサーバの設計法の提案や標準的な低次元化を応用した階層的な構造をもつ低次元オブザーバの設計法の提案などを行っています。

  • Tomonori Sadamoto, Takayuki Ishizaki, Jun-ichi Imura: Average State Observers for Large-Scale Network Systems. IEEE Transactions on Control of Network Systems, 4(4), pp.761-769, 2017. (DOI: 10.1109/TCNS.2016.2550866)

  • 小池雅和, 石崎孝幸, 定本知徳, 井村順一: 階層分散オブザーバの設計と電力ネットワークへの適用. システム制御情報学会論文誌, 27(9), pp.353-363, 2014. ISCIE論文賞