学士特定課題研究テーマ

2023年度

Saw Kay Khine Oo:同期発電機のパークモデルを用いたレトロフィット制御の性能評価

これまでのレトロフィット制御の研究では、同期発電機の1軸モデルを採用した場合に、実装するレトロフィット制御器の数を増加させることで系統安定度が適切に向上することがわかっていました。本研究では、詳細な振る舞いを表現できる同期発電機のパークモデルを採用して、既存研究と同様にレトロフィット制御が有効であることを確認しました。今後は、さらなる性能向上に向けて、パークモデルを用いたレトロフィット制御に近似環境モデルの同定を組み込むことを目指します。(Saw Kay Khine Oo)

齋藤 空経済性を考慮した前日計画に沿って運用される再エネ連系電力系統の安定度評価

電力系統の前日計画では、翌日の電力需要や再生可能エネルギーの予測値を用いて発電機や蓄電池の運用を計画します。本研究では、前日計画と当日運用を統合したシミュレーション環境を新たに構築することによって、太陽光発電量の導入量が増加すると、電力系統の過渡安定度が低下する傾向にあることを明らかにしました。今後は、地絡などの大きな外乱に対する系統安定度も評価することによって、経済性と安定性を両立した前日計画手法を構築することを目指します。(齋藤)

2022年度

市村 太一:3標本分散による水素メーザ原子時計の安定度評価

原子時計の周波数安定度はアラン分散という指標で評価されます。しかし、水素メーザ原子時計のアラン分散は測定の度に揺らいでしまい、安定度が一意に評価できません。本研究では、3標本分散という指標を用いることで、水素メーザ原子時計の周波数安定度を一意に評価できることを発見しました。今後の課題は、いかなる種類の原子時計に対しても周波数安定度を一意に評価できる新たな指標を開発することです。市村

織田 健太郎:原子時計の確率過程モデリングにおける雑音分散の最尤推定

原子時計の揺らぎをもつ振る舞いは、多重積分器に白色雑音が作用する状態空間モデルによりモデル化できることが知られています。本研究では、原子時計から得られた観測値から雑音の分散を推定する方法を検討しました。具体的には、観測値の推定分布の尤度を最大化することで、雑音の分散を求められることを示しました。実際の原子時計から得られたデータによって雑音の分散を推定することが、今後の課題になります。(織田)

大西 慶幸:2軸発電機モデルで構成された電力システムの受動性解析

同期発電機に対して、発電量の指令値を入力、角周波数偏差を出力とするとき、1軸の発電機モデルで構成された電力システムは受動性をもつことが知られていました。本研究では、より複雑な2軸発電機モデルで構成された電力システムを対象にして、受動性解析の議論を拡張しました。今後は、再生可能エネルギーの導入を念頭において、GFMインバータ制御への応用を考えていきます。(大西)

2021年度

西野 択:蓄積関数の正定性に基づく電力潮流状態の安定領域解析

電力系統の定常潮流状態に対する安定領域の大きさをエネルギー関数の凸性に基づいて見積もる手法を考察しました。本手法は、将来的に再生可能エネルギー発電が主要な発電方式になった際に、自然による外乱にも耐え得る安定な電力の供給配分計画を設計することに役立つと期待されます。今後は「経済コストの最小化」という観点で安定性とのトレードオフも考慮した解析手法を考案していきたいと思います。西野

田屋 実希:電力システムの受動性に対する蓄積関数のクロン縮約による解析

電力系統モデルは微分代数方程式系(DAE)と常微分方程式系(ODE)の2通りで表現が可能です。本研究では、2つのモデル表現における蓄積関数の等価性を調べました。具体的には、常微分方程式の解軌道に沿った計算により数値的な等価性を明らかにすることに加えて、クロン縮約を用いて数学的に等価性を証明しました。近似線形化されたモデルについても同様の問題を解決することが今後の課題となります。田屋

織田 諒:多主体レトロフィット制御を非干渉化する最適サブシステム分割の検討

近似環境モデリングを組み込んだレトロフィット制御を多主体が同時並行で適用した場合に生じる主体間制御の干渉について考察しました。本研究では、全体システムのサブシステムへの分割を最適化することによって、上記の主体間制御の干渉が抑制されることがわかりました。サブシステム分割を自動的に行うアルゴリズムの開発が今後の課題となります。(織田

2020年度

伊藤 将寛:近似環境モデルの内部状態を利用したレトロフィット制御

環境の近似モデルを活用したデータ適応型制御の研究として、新たに近似環境モデルの内部状態を利用するように理論を拡張しました。コントローラ設計における自由度の増加が利点として挙げられます。今後は、本理論に基づいて制御性能を向上するための近似環境モデルの同定手法について研究していきたいと思います。(伊藤)

木村 陽太:経済的自動発電制御の過渡特性解析:発電機数をパラメータとして

将来的に火力発電機の数が減少することを想定し、経済性を考慮して最適に発電機を配置した場合における周波数応答などの過渡特性を数値的に考察しました。その結果、ネットワークの中央付近の発電機から削減した場合に、過渡特性などに対する悪影響が少ない傾向があることがわかりました。今後は、再エネの影響を考慮したより現実的なモデルを対象に考察を進めていきたいと思います。(木村)