レトロフィット制御に基づく制御系のモジュラデザイン理論の構築
レトロフィット制御とは、多数の主体によって増改築されていく大規模なネットワークシステムに対して、局所的なサブシステムモデルのみを用いたコントローラの設計と実装により大域的なシステム特性や制御性能の改善を目指す、新しい考え方の制御理論です。 レトロフィット制御では、従来のロバスト制御とは異なり、注目するサブシステムとのフィードバック系が安定である任意の環境(注目するサブシステム以外の未知なサブシステム群)に対して、注目するサブシステムモデルのみを用いて設計された局所コントローラにより制御系全体の安定性の保証と制御性能の向上を考えます。 これにより、多数の独立した主体(サブシステム管理者)が制御系の不安定化を危惧することなく、自身が管轄するサブシステムに対して局所コントローラを自由に導入・取替・撤去することが可能となります。 これは、分散制御系のモジュラデザインに対する有用なアプローチのひとつとなることを意味しています。
これまでの成果として、具体的なコントローラ設計手法の構築に加えて、Youlaパラメトリゼーションをもとに、すべてのレトロフィットコントローラの特徴付けを与えることに成功しています。 また、複数のレトロフィットコントローラが同時並行的に設計および実装された場合のシステム特性や制御性能の解析を行っています。 さらに、局所的に計測可能なデータから未知で可変な環境の近似モデルを同定し、その同定された近似モデルをレトロフィットコントローラに可変なパラメータとして組み込むことによって、さらなる制御性能の向上が図れることを理論的に示しました。 同定された近似モデルの安定性や入出力特性に依らずシステムの安定性を常に保証することができるため、オンラインでの未知の環境の同定(学習)などと相性が良い制御手法となっています。
東工大広報課に作成いただいたインフォグラフィックス
再生可能エネルギーを基盤とするスマートグリッドの実現に向けたレトロフィット制御の応用
米国や欧州を中心として電力システムへの太陽光発電や風力発電などの再エネの導入が盛んに進められており、わが国でもその導入量は今後も増加すると見込まれています。 しかしながら、再エネの導入量が増加するにつれて、電力システムの系統安定度が低下する傾向にあることが知られており、落雷などをきっかけとして停電などの重大な障害が引き起こされる可能性が高くなります。 したがって、系統安定度を向上するための現実的に設計と実装が可能な制御技術の開発は、今後の再エネの大量導入に向けて非常に重要です。
このような背景のもと、本研究ではレトロフィット制御理論を活用し、再エネが導入された電力システムに対して系統安定度を向上する新たなプラグイン型制御技術を開発しました。 より具体的には、IEEE68バスシステムと呼ばれる電力システムの標準モデルに風力発電機のモデルを接続し、詳細なシミュレーション実験を行うことにより、このレトロフィット制御に基づくプラグイン型御技術の有効性を示しています。 また、電気学会から提供されているEAST30機システムに太陽光発電機のモデルを接続しシミュレーション実験を行うことにより、太陽光発電の導入に対しても同様に系統安定度の向上が図れることを示しています。 その他、需要量や再エネ発電量、送電線パラメータなどの推定に相当する未知の環境の同定を組み込んだ新たなレトロフィット制御手法の構築を目指します。
風力発電連系系統のレトロフィット制御
代表的な論文(プレプリント版)
IEEE Transactions on Automatic Control (2022)
Automatica (2019)
Control Engineering Practice (2019)
IEEE Transactions on Control of Network Systems (2018)
Automatica (2018)
講義動画